大判例

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東京高等裁判所 平成7年(ネ)2003号 判決

控訴人・附帯被控訴人

信越定期自動車株式会社

ほか一名

被控訴人・附帯控訴人(原告)

飯塚雅彦

ほか一名

主文

二 本件控訴に基づき、原判決主文第一項を次のとおり変更する。

1  控訴人らは各自、被控訴人飯塚雅彦に対し一一八万四六六六円、同美智子に対し七七万二二二六円及び右各金員に対する平成二年八月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

二 本件附帯控訴をいずれも棄却する。

三 訴訟費用は第一・二審を通じてこれを一〇分し、その一を控訴人らの、その余を被控訴人らの各負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決中控訴人らの敗訴部分を取り消す。

被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

2  被控訴人らの附帯控訴をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  附帯控訴として

(一) 原判決中被控訴人らの敗訴部分を取り消す。

(二) 控訴人らは各自、被控訴人飯塚雅彦に対し、一二三六万七五一三円、同飯塚美智子に対し六四九万八五一〇円及び右各金員に対する平成二年八月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一・二審とも控訴人らの負担とする。

第二事案の概要

次のとおり付加、訂正するほか、原判決の「事実及び理由」第二に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の訂正

1  原判決二枚目裏一行目の末尾に続けて「原審は、被控訴人らの請求を一部認容し、これに対し、控訴人らが控訴し、被控訴人らが附帯控訴した。」を加える。

2  同三枚目表五行目の「停止」を「て」に改め、同裏六行目の次に行を変えて次のとおり加える。

「三 傷害に関する当事者の主張

1 被控訴人ら

本件事故により、被控訴人雅彦は、外傷性頭頸部症候群、右拇指捻挫、右肘部打撲、両耳管狭窄症、急性鼻咽腔炎の傷害を負い、同美智子は、頸部捻挫、胸部打撲、腰椎捻挫、両耳管狭窄症、急性鼻咽腔炎の傷害を負い、両名とも、平成二年八月二三日以降奥田整形外科病院に通院しており(平成三年二月六日までの実通院日数一〇〇日)、その間の平成二年一〇月四日及び同月五日に吉田耳鼻咽喉科に通院した。

2 控訴人ら

被控訴人らの通院の事実は認めるが、被控訴人らの傷害の部位、程度及び本件事故との因果関係を争う。」

二  当審における主張

1  被控訴人ら

(一) 休業損害について

被控訴人らの休業損害の算定に当たつて賃金センサスを使用する場合には、平成二年度のものではなく口頭弁論終結時のものを使用すべきであり、これによると被控訴人雅彦の年収は七〇〇万六二〇〇円、同美智子のそれは三四〇万二四〇〇円となる。

(二) 損害の填補について

控訴人らが被控訴人らに支払つた分は、通院交通費の内金として支払つたものであるから、これを他の費目から控除することはできない。

2  控訴人ら

(一) 休業損害について

被控訴人らは、本件事故以前には確定申告もしておらず、一体どれ程の収入があつたのか全く判明していない。このような場合に賃金センサスを使用して休業損害を算定するときには、平均賃金の七、八割程度を算定の基礎にするのが相当である。

(二) 損害の填補について

被控訴人らは、控訴人らの交通費の内金として支払つたものではない。

第三争点についての判断

当裁判所は、被控訴人らの請求は、被控訴人雅彦につき一一八万四六六六円、同美智子につき七七万二二二六円及び右各金員に対する平成二年八月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の「事実及び理由」第三に説示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決三枚目裏八行目の「一五ないし」を「一五の1ないし8、一六、」に、同行の「二〇ないし」を「二〇の1ないし8、二一の1ないし3、二二の1ないし13、二三の1ないし8、二四、」にそれぞれ改め、同行の「乙一」の次に「の1ないし3」を加え、同末行の「左折」を「右折」に、同行の「右折」を「左折」にそれぞれ改める。

二  同四枚目表九行目の「雅彦」の次に「(昭和一一年二月六日生)」を、同行の「美智子」の次に「(昭和二〇年四月一五日生)」を、同裏八行目の「症候群」の次に「等」をそれぞれ加える。

三  同五枚目表七行目及び同九行目の各「骨子」を「骨棘」に、同一〇行目の「頸部脊椎症」を「変形性頸椎症」にそれぞれ改め、同裏四行目の「腰椎捻挫」の次に「等」を加え、同六行目の「、目眩」削る。

四  同六枚目表二行目の「所見は」を「所見が」に改め、同五行目の次に行を変えて次のとおり加える。

「7 国立療養所村山病院整形外科の大谷清医師は、次のとおり意見を述べている。

(一)  被控訴人雅彦について

頸部にみられる前記客観的所見は、加齢現象による著明な頸部脊椎症所見であり、本件事故とは関係がない。なお、右頸部脊椎症があるので、頸部痛、倦怠感等の愁訴が本件事故と関係無く存在しても不思議ではない。また、両耳管狭窄症及び急性鼻咽腔炎も本件事故とは関係がない。

右のほか訴える症状に相応する他覚的所見がないこと、受傷の六日後に初めて受診していること、及び受診時の所見が極めて軽いことから、本件事故による被控訴人雅彦の傷害は、軽い頸部挫傷程度のものであり、その治療は一、二週間の頸部安静固定、その後一、二週間の温熱、運動等の後療法、合計約四週間以内の治療で十分である。なお、本件事故により頸部脊椎症に基づく愁訴が発生又は悪化したことも考えられるが、本件事故の程度及び右の事情を考慮すると、そのための治療としても、約四週間あれば十分である。

治療期間が長期化したのは、医師が本件事故による傷害と既存の頸部脊椎症とを区別し、かつ、そのことを患者に十分説明した上で治療に当たらなかつたこと、及び交通事故による患者の心因的要因の関与が原因であると考えられる。

(二)  被控訴人美智子について

年齢相応の頸椎椎体縁の骨硬化等の所見があるほかには、他覚的所見はないので、本件事故による傷害は、軽い頸部挫傷程度のものであると考えられ、その治療としては、一、二週間の頸部安静固定、その後一、二週間の後療法で十分である。なお、両耳管狭窄症及び急性鼻咽腔炎も本件事故とは関係がない。

治療期間が長期化したのは、本件事故による傷害についての医師による詳しい説明とそれに対する患者の同意不足及び交通事故による患者の心因的要因の関与が原因であると考えられる。」

同六行目の「比較的」を削り、同七行目の「頸椎捻挫等」の次に「で(両耳管狭窄症及び急性鼻咽腔炎も本件事故とは関係ない。)、通常は精々四週間程度の治療によつて完治するもの」を加え、同八行目の「心因的要因」から同裏六行目の末尾までを次のとおりに改める。

「ものであり、被控訴人らの心因的要因が大きく寄与しているものと認められる。しかしながら、このような場合においても、心因的要因の関与する部分を直ちに本件事故と相当因果関係がないものとして切り捨ててしまうのは相当でない。このような場合には、まず心因的要因をも含め本件事故と相当因果関係があると認められる損害額を認定した上(必ずしも実際に要した通院・休業期間等がすべて相当因果関係があるものとされるとは限らないことは、当然のことである。)、民法七二二条二項を類推適用して、損害の拡大に寄与した被控訴人らの右事情を斟酌して、損害賠償額を定めるのが相当である。

これを本件についてみると、前認定の本件事故の態様、被控訴人らの受傷の部位・程度、治療の経過・内容等諸般の事情を総合勘案すると、心因的要因を考慮しても、被控訴人らの治療期間は余りにも長期間にすぎるものというべく、これをすべて本件事故と相当因果関係があると認めることはできず、精々、被控訴人雅彦については本件事故後一年間、同美智子については本件事故後一〇か月間に限つて、相当因果関係があるものと認めるのが相当である。そして、被控訴人らの心因的要因の寄与度を五割とみて、これを斟酌して損害賠償額を定めるのが相当である。」

同一〇行目の「六二万九五三四円」を「一一〇万八八六四円」に、同末行の「三八万五〇〇〇円」を「七一万六四九〇円」にそれぞれ改める。

五  同七枚目表一行目冒頭から同五行目の末尾までを次のとおり改める。

「証拠(甲三、五、一八、一九)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人らは、平成二年八月二三日から平成三年五月一七日まで奥田整形外科病院に通院し、その間の治療費等として、被控訴人雅彦が一一〇万八八六四円、同美智子が七一万六四九〇円を要したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。」

同六行目の「甲」の次に「七、九、」を加え、同裏一行目から二行目にかけての括弧内の全部を「請求額被控訴人らのそれぞれにつき一〇万二〇〇〇円」に改め、同三行目の全部を次のとおり改める。

「被控訴人雅彦につき八万六〇二〇円、同美智子につき七万五一四〇円

被控訴人らの診療実日数は、本件事故後平成二年一二月三一日までが各一〇〇日であることは、前記1に認定したとおりであるところ、証拠(甲一六、一七、乙一五、一六、被控訴人美智子本人)によれば、被控訴人雅彦の平成三年一月一日以降同年八月一六日まで(本件事故から一年経過後)の診療実日数は一五三日であり、同美智子の同年一月一日以降同年六月一六日まで(本件事故から一〇か月経過後)までの診療実日数は一二一日であること、及び一回の通院のためにはバスで往復三四〇円を要することが認められる。そうすると、本件事故と相当因果関係のある通院交通費は、被控訴人雅彦につき八万六〇二〇円、同美智子につき七万五一四〇円となる。」

同六行目の「六四三万六九〇〇円」を「三二一万八四五〇円」に、同七行目の「二四七万一八〇〇円」を「一二七万一八七五円」にそれぞれ改める。

六  同八枚目裏六行目の「おける」の次に「平均賃金(当裁判所に顕著な平成三年版」を、同七行目の「学歴計」の次に「)」をそれぞれ加え、同九行目から一〇行目にかけての「二四七万一八〇〇円」を「三〇五万二五〇〇円」に改め、同裏一〇行目の末尾に続けて次のとおり加える。

「なお、被控訴人らは、口頭弁論終結時の賃金センサスを使用すべき旨主張するが、本件事故は平成二年に発生したのであり、被控訴人らの休業は始めたのも同年であるから、同年度の賃金センサスを用いるのが相当である。また、控訴人らは、本件においては、賃金センサスによる平均賃金額の七、八割をもつて被控訴人らの収入とするのが相当である旨主張するが、採用することができない。」

七  同九枚目表四行目の「本件事故発生から一年の期間は」を「被控訴人雅彦については本件事故から一年間、同美智子については本件事故から一〇か月間、それぞれ平均して五割の」改めに、同五行目の冒頭の「えない」の次に「が、それ以上の休業をしたとしても、本件事故と相当因果関係にあるものと認めることはできない」を加え、同行の「六四三万六九〇〇円」を「三二一万八四五〇円」に、同六行目の「二四七万一八〇〇円」を「一二七万一八七五円」に、同八行目の全部を「被控訴人雅彦につき一二〇万円、同美智子につき一〇〇万円」に、同一〇行目の「反訴原告各人につき一二〇万円」を「被控訴人雅彦につき一二〇万円、同美智子につき一〇〇万円」に、同末行の「八二六万六四三四円」を「五六一万三三三四円」に、同裏一行目の「四〇五万六八〇〇円」を「三〇六万三五〇五円」に、同三行目から四行目にかけての「四一三万三二一七円」を「二八〇万六六六七円」に、同四行目の「二〇二万八四〇〇円」を「一五三万一七五二円」にそれぞれ改める。

八  同一〇枚目表二行目及び同五行目の各「延長」の次に「線」をそれぞれ加え、同裏六行目の「からから」を「から」に改める。

九  同一一枚目表三行目の「二八九万三二五一円」を「一九六万四六六六円」に、同四行目の「一四一万九八八〇円」を「一〇七万二二二六円」にそれぞれ改め、同四行目の次に行を変えて次のとおり加える。

「五 損害の填補(被控訴人雅彦につき九〇万円、同美智子につき四〇万円)

控訴人らが被控訴人雅彦に対し九〇万円、同美智子に対し四〇万円をそれぞれ弁済したことは、当事者間に争いがない。なお、被控訴人らは、控訴人らが被控訴人らに支払つた分は、通院交通費の内金として支払つたものであるから、これを他の費目から控除することはできない旨主張するところ、証拠(甲二七)によれば、被控訴人雅彦の控訴会社宛の七〇万円の領収書の但書欄には『交通費内金』と記載されていることが認められる。しかしながら、交通事故によつて身体に傷害を負つたことに基づいて生じる損害は、その費目の如何を問わず一個の損害であると観念されるので、一定の損害の費目に対するものとして損害の填補がされた場合であつても、当該填補分が右費目以外の費目の損害を填補する趣旨のものではない旨の特段の合意がされていないときには、右填補分を賠償すべき損害額の全体から控除することができるものと解するのが相当である。本件においては、右特段の合意がされたことを認めるに足りる証拠はないので、前記の填補分は控訴人らが被控訴人らに対して賠償すべき損害額の全体から控除するのが相当であり、被控訴人らの前記主張は採用することができない。」

同五行目の末尾に続けて「(請求額被控訴人雅彦につき一〇〇万円、同美智子につき五〇万円)」を加え、同八行目の「二九万円」を「一二万円」に、同行の「一四万円」を「一〇万円」にそれぞれ改める。

以上のとおりであるから、被控訴人らの請求は、控訴人ら各自に対し、被控訴人雅彦が一一八万四六六六円、同美智子が七七万二二二六円及び右各金員に対する不法行為後の日である平成二年八月一八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅廷損害金の支払を求める限度で理由があり認容すべきであるが、その余は理由がないので棄却すべきである。

よつて、本件控訴に基づき、右と異なる原判決主文第一項を右のとおりに変更し、本件附帯控訴はいずれも理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 清水湛 瀬戸正義 西口元)

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